IF

白く透明な肌に赤い口紅が艶めき、金髪がさらりと光る。

私がこのSEED RECORDに就職が決まったのは、ここの社長さんが私の父の昔からの友人という縁からで。
私の大学での成績もかわれ、音楽スタッフ兼、ゴーストライターとして社長がじきじきに連絡をしてくれた。
社長の神咲悟(しんざきさとる)さんとは、ロンドンでの父のお葬式以来会っていない。

アリスは一呼吸置いて、社長室のドアをノックした。
返事の声を確認し、静かに部屋に入った。

「失礼します。」

彼女が顔を覗かせると、椅子に腰掛けた男性が振り向いた。
そして微笑む。
その笑みは、どこか懐かしい友人と再会したような表情だった。

「久しぶりだね、アリス。」

アリスは腰を上げようとしない彼を見て、自ら歩み寄って頭を下げた。

「おじ様もお変わりなく・・。」

「ああ、元気だ。ずいぶん日本語がうまくなったね。」

「はい、読み書きは練習中ですが。」

やわらかい笑顔で彼は続けた。

「ちょうど、4年ぶりくらいだね。すっかり大人になって・・・、綺麗だ。」

「いえ、おじ様こそ今でも若々しくて。」

「ハハ、これでももう40だよ。相変わらず足が言うこと利かなくてね、座ったままで失礼。」

社長はアリスの両親の大学時代の同級生だ。
彼女の父と同じように音楽関係の仕事をしていた彼は、現在プロの音楽家を育成するための専門学校の設立も進めている、音楽業界では名が知られている有名人だ。
少年のような童顔が特徴的で、数年前の事故で足を悪くしている。
< 23 / 109 >

この作品をシェア

pagetop