IF
「(び・・・・っくりしたぁ・・・・!)」
抱きしめられそうな距離だった。
彼は私よりその小さな頭一つ分、背が高い。
「あ、ありがとうございます・・」
赤茶っぽいコートの今日の彼は、ずいぶん背が高いように感じた。
後ろ髪をまとめているのか、若干髪の毛が短いように見える。
シュラは相変わらずのポーカーフェイスで彼女に言った。
「あんたに頼んだ仕事じゃないんだけど」
シュラの依頼だったんだ・・・。
白い肌・・・やはり昨日より顔色がよくないような気がした。
「水嶋さんが忙しいので、代わりに頼まれまして・・・それで」
「・・・そう。」
シュラは少し間をおいて素っ気無く答えると、もう一度棚に手を伸ばしてレコードを手に取った。
「いいよ、俺が探すし」
「え!」
「・・うちの事務所、結構ゴーストライターの仕事多いんだ。俺もやってるけど手が回らない。やっぱ日本人じゃちょっと訳し方違ってくるし、依頼者側はたいてい俺みたいな帰国子女か外人に頼んでる」
「はぁ・・」
「あんたがやってくれたら、俺も皆も助かる。」
アリスは彼の言葉を聞きながらも、無意識にその顔をじっと見つめていた。
「だから、そっちのほうを手伝って・・・」
彼女に振り向く彼の左耳で、例の黒いピアスが光る。
「・・何見てんの・・・?」
「いえ!あの・・・・シュラさん、ちゃんと食事摂ってます?」
心配になった彼女は思わずそう聞いた。
「なんで・・」
彼は視線をそらして口をつぐんだ。