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「なぁ、ラファル大天使様・・・」
弦を絡ませて格闘していた彼の顔を、ボーっと見つめた。
彼は渋い顔を私に向けた。
「やめろ、そんな呼び方。」
「・・・いい名だと思うぞ、俺は。」
「うるさい。」
「・・・お前さぁ、一応キリスト教徒だろ?天使を信じてないのか?」
「残念だが、宗教は俺に聞かないでくれ。唯一まったく興味がわかない分野なんだ。」
「へぇーそうなのか・・・。」
再び弦を引っ張りながら、彼はてきぱきと手を動かす。
しばらくその作業をボーっと見ていると、彼から声をかけてきた。
「何だ・・・?」
「ん?」
「何か悩み事か?」
そう素っ気無く聞きながら、彼の横顔は瞳だけ私に向けていた。
「いや・・・。そういえば、ラファエルって何の天使だっけ?大天使の一人ってことしか知らないな・・・。」
だから俺に聞くなよ、とでも言いたげな表情をこちらに向けて、彼はしぶしぶ口を開いた。
「風の元素を司ると言われている、風の天使だ。名前の意味は『神は癒す』。」
「へぇ・・・よく知ってるじゃないか。」
「聖書はキリスト教徒なら子供の頃から読まされるだろ。」
「そうなのか、俺は仏教だしな。」
そう言って笑うと、彼は少し呆れたようにため息をついて、バイオリンの弦を切った。
どうやら張替えは終わったらしい。