紅梅サドン
「心配いらないですケドーー。」

小さな喫茶店の椅子に座る雪子はそう言って、アイスクリームを口に入れる。

バニラアイスクリーム。美人が食べていると時に、淫靡だ。

柔らかな液体とも個体ともつかない、この世の無情を嘆く様に溶けていくバニラは、皿の上で次第にダラダラと形を崩し、雪子はそれを惜しげ無くすくい上げ、愛しそうに口に収めた。

しかし理解した。インチキ占い師のお告げを真に受けるこの美人は、間違いなく面倒臭い類の人間に違いない。

目の前で何とも幸せそうにアイスクリームを頬張る彼女は、何かがおかしい。

「今すぐ結婚なんてできません。

僕がどんな人間かもわからないじゃないですか。

僕も雪子さんの事を殆ど知りませんし。」

雪子はバニラの銀スプーンを静かに置いた。

店のＢＧＭは静かなクラシックか何かだ。

その低い音だけが耳障りな程に、しばらく沈黙が流れた。



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