紅梅サドン
僕は思い切って雪子に尋ねた。

「福島?行っても構わないけど、一体どこに行くの?」

雪子は深呼吸をして僕等を真正面から見据えた。


「私が逃げ出して来た家です。

家を出る時に、もう二度と戻らないと心に誓いましたが、お二人が来て下さるなら、私、行きます。

私ーー。
彼にこれをちゃんと渡したいんです。

それと、私ーー。
彼の太ももを台所にあった包丁で“刺して”しまいまして。

痛かっただろうな、と思ってーー。刺されたら痛いですよね?秋さん。」


一瞬にして化石の様に固まる僕等を、地底を這うような冷房の『ブブーン』という低い音色が包んだ。



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