紅梅サドン
いつも“元ラガーマン”の単語がひとたび出ると、僕とルノーは完全にそこで黙り込んでしまう。

雪子の腕のアザは、その『元ラガーマン旦那』と争った時に付けられた痕なのだろう。

結婚した雪子以外に外で女を作りまくり、いざ離婚となると暴れ出す様な困った人間には、出来れば会いたくない。

僕より子供なラガーマンだ。

しかし腐ってもーー『ラガーマン』。

僕とルノーが雪子に付いていったら、逆上して暴れ出す可能性が高い。

雪子がまた頭に血が昇って、再び包丁が太ももにーー。


止めよう。
考え出すと恐怖でおかしくなりそうだ。

ルノーの表情もどんよりと曇っている。

ルノーも僕と同じ想像をしているに違いない。

僕とルノーが殆ど同時に吐いた溜め息は、蒸し暑い部屋中にむなしく響いて行くだけだった。




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