紅梅サドン
「ふうん。ま、居ない事も無いけど。

矢萩って人が雪子を『新しい彼女』って呼んでるって事は、秋ジイには前に彼女が居たんだろ?。」

ルノーは冷房のすぐ下を陣取ると、チラリと僕を見た。

「一年前までな。でも、もうずっと会ってねえよーー。」

部屋の蒸し暑さで溶け出したグラスの氷が、真っ黒だったアイスコーヒーの色を随分薄めている。

グラスの氷が、トライアングルに似たカチンという高い音を鳴らしている。

ルノーは再び僕の顔を覗き込んだ。



< 186 / 311 >

この作品をシェア

pagetop