紅梅サドン
「本当は、親は死んでないーー

母ちゃんは病気で死んだけど、『父ちゃん』だけは、まだ生きてるって話してただろ?

今、世田谷に住んでるから来いって。

でもやっぱり嘘か。『田辺』って表札に書いてあったぞ。

お前と名字が違うなんて変じゃん。

随分とショボい嘘だよなあ。」

三人の少年達が一斉に次郎を指差して笑う。

雪子もルノーも、その予想外の光景に固まっていた。


「ーー本当だ。この人が僕の『父さん』だ。

事情があって、死んだって事になってるだけだ。

だからーーー。」


冷房の機械音が低い音を立てて流れる。


次郎はその後の言葉が出ずに、ただ黙りこくっていた。



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