紅梅サドン
『31』だ。切りのいい『30』ではない。
右の桁に三がつく歳になって一年。

銀座のショーウィンドウに映る自分の姿を確認した。

やっぱりこの歳なら無難なグレーのネクタイが一番良かったはずだ。

初対面で“黄色”は止めておけば良かった。

今日のラッキーカラーがいけない。

毎朝かかさず見てるワイドショーの占いコーナーで、天秤座の僕に“黄色”を勧めてくるなんて初めてだ。

ラッキーカラーに可愛らしく迷う31才は、確実に“不正解”なのだろうか。

目に染みる様な黄色が、そのまま僕を飲み込んでしまいそうに僕の首に巻きつく。


「ーー秋さん、田辺秋さんですよね?」


急に僕の背後から、か細い女性の声が聞こえた。



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