アイ・ラブ・おデブ【完結】
リビングでも小夜の胸が再び苦しくなる光景が拡がっていた

一緒に見たテレビも、くっついて座ったソファも、食事を並べたテーブルもそこには見当たらない

ただ雑然と段ボール箱があるだけで、まるで知らない部屋に来たようだった

なぜだか入り口から奥に進むのが怖いと感じ、動けなくなった

カーテンが外された窓から外を眺めている遥の背中にそっと声をかけた

「…荷物…片付いちゃったね
…」

もっと違う言葉をかけたいのに…見たまんましか口にできなかった

「…あぁ」

微かに聞こえた一言にギュウッと胸が苦しくなる

…声…もっと聞きたい…
でも…もう終わり…なの?
駄目、駄目!弱気になってちゃ…駄目だ
今日はきちんと本当の気持ちを聞かせてもらうんだから…

「あのね…ハル…ちゃんと教えてくれないかな?
みんなの反対を押し切って…急にパリに行く本当の理由を…
こんな風に周りを傷つけるようなやり方…
ハルだってこんなに傷ついて…ボロボロになって…
いくら、環さんが望んだって…このままじゃ…ハルが壊れちゃうよ」

口から出てきた言葉は遥を気遣うものだった

見つめる先の背中は呼吸に合わせ、僅かに動いているがこちらに振り返る様子はない
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