アイ・ラブ・おデブ【完結】
試合開始から15分を過ぎた頃、隣に立っていた店主が小さな声で呟いた

「おぉっ!」

小夜はやっとフジ登山者達の半分をお腹に納め、ご飯を頬張るのに必死だった

きらりのフジはすでに山ではなくなり、どんぶりの底への掘削作業に入っていた

8分もの制限時間を残し、きらりは米粒もシッポも残さず試合を終えて静かに箸を置いた

それはマイクを静かに置く、引退セレモニーのような神聖さがあった

「姉ちゃんやるなあ…」

威勢を削いだ店主から、呆気にとられた声が出た

小夜は残り時間が30秒というギリギリの試合だった

「こっちもか…」

ガックリと肩を落とし一回り小さくなった店主は、店の奥へ音もなく消えていった

こちらが引退のようだ

代わりに奥から現れたのは、化粧の濃い無愛想なオバサンだった

壁の写真と同じ袋を二つ小夜達に押し付け、カメラを壁側に向けた

「二人一緒でいいね」
とアゴで示し、有無を言わせぬ迫力で二人を並ばせた

合図も無しにシャッターを切り、どんぶりを片付け始めた

…今のどんな顔してた?
もしかして目を閉じてたんじゃ…

無愛想なオバサンの後ろでニヤケている男は目に入らなかった
< 16 / 1,499 >

この作品をシェア

pagetop