まだ、恋には届かない。
「とにかく。この日は予定があるので、何があっても仕事はしません。会社が火事でも飛んできません」

さらりと、とんでもない例えを口にする亜紀に、町田は呆れた口調で亜紀を叱った。

「バカ。縁起でもねえこと言うなっ」
「会社が燃えてたら、ボクも来ません。来てもしょうがないし」

隣に座っている後輩の北岡修(きたおか しゅう)が、松本さんはホントに面白いなあと楽しそうに笑いながら、亜紀の言葉に同意した。

「なんがあるんだ、その日」

亜紀を胡乱な目つきで眺めながらの町田の問いかけに、亜紀は目を三角にして笑う。

「教えません。いいことです。うふふふふ」
「お前がそういう顔してるときは、大抵、アレだ。ひょろっとしたなんとかってヤツのおっかけだ」

これこれこれ。
そう言いながら、亜紀の卓上カレンダーの左半分を占めている写真を、指でペシペシと弾く町田に、亜紀は悲鳴を上げてその手を叩き払う。

「坂木くんですっ 坂木慎(さかき しん)くんです。なんとかなんて失礼な名前つけないでくださいっ なんてことするんですかっ きれいな顔に傷でもついたら」
「うるせっ バカ。たかが写真に一々喚くな」

ぷんと膨れる亜紀に、町田はけっと息を吐いた。

「いい年して。いつまで、そんなおっかけなんてしてるかねえ」
「ほっといてください」
「だから、彼氏の1人もできねえんだよ、お前は」
「いりませんから」
「なあ。うるせーって言ったよな。俺」

また始まったのかと、野田はうんざりしたように2人を眺めていた。
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