まだ、恋には届かない。
「マジで、いねえの?」
「町田さんっ いつも自分で言ってるじゃないですかっ そんなおっかけなんてしてるから、彼氏もできないだのなんだのって」

ひどいっ
剥れる亜紀に、町田は悪い悪いと、微塵の誠意もこもっていない声で詫びた。

「いや、そう言いつつも、ホントはいるんだろって、な」
「なにが、な、ですか。いるものをいないとウソついて、どうするんですか」

まだ怒り覚めやらぬ様子の亜紀に、町田は下手を打ったなと頭を掻いた。

「あー。昼飯、どうすんだ、そういや。なんかそこらのコンビニで買ってくるか?」
「お弁当食べます。町田さんは? ちょうどお昼だし。何か作りましょうか?」
「いいよ。その手じゃ、大変だろ」
「腕のほうなんで、ムリに捻ったり、激しく振り回したりとかしなければ、なんとか、大丈夫そうです。手のほうは」

痛いのは何もしなくても痛いでしょうから。しばらくは。
そんなこと言いながら立ち上がった亜紀は、冷蔵庫を開ける。中のものを見ながら「親子丼ならすぐ作れますよ」と、町田に背を向けたままそう言って、振り返って悲鳴を上げそうになった。

思いがけず近くに、町田の立って、冷蔵庫の中を一緒に覗いていたからだ。

「驚かさないでくださいよっ もうっ」

驚かされた仕返しだというように、亜紀は町田の足をペシっと軽く叩いて怒る。

「冷蔵庫の中までチェックしないでくださいよっ」
「ちゃんと飯作ってんだなー」

感心感心と。
叩かれたことなど気づいてもいないように、町田は冷蔵庫の中を覗き込みながら、小さな頷き繰り返していた。
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