まだ、恋には届かない。
「食べますか? 食べませんか?」
「手、無理してねえか? 足も、立ってて平気か? 大丈夫なら食わせてくれ」
「大丈夫です。当面、この状態で生活していかなきゃならないんだから、慣れないと」

町田の返事を聞いて、亜紀は卵と鳥の胸肉とちくわの入った袋を出して調理台に置いた。
それから、冷蔵庫脇に置いてある、藤製の2段のオープンシェルフの下段から、たまねぎとしいたけ、長ネギを取り出した。

「何か手伝うか?」
「料理とか、されるんでしたっけ?」
「やかんでお湯なら沸かせるぞ」
「それは調理とは呼べません」
「コーヒーは、それで淹れられるぞ」

亜紀の言葉に負け惜しみのようにそう言ったものの、どうやら邪魔らしいと悟った町田は、またイスに座った。

小さな片手鍋に水を張って、湯を沸かし始めて、その間に出した食材を淀みない手つきで切っていく。
途切れることのない、一定のリズムで包丁を叩く亜紀に、町田はまたしみじみと感心した。

自分の後姿を見つめている町田の視線など、亜紀は全く気にすることもなく、なるべく負傷している手足に負担をかけないようキッチンを動き回った。
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