まだ、恋には届かない。
5センチほどの深さのある楕円形の皿にご飯を盛り、刻んだ海苔を振りかけていると、町田の爆笑する声が聞こえた。

退屈しのぎに、リビングのほうをウロウロしていることには気づいていたが、いったい何を発見して笑っているのかと眺めると、テレビ台の前にその姿はあった。

「もうっ なんですかっ あれこれ物色しないでくださいって、言ったじゃないですかっ」
「いや。見事なDVDコレクションだなってな」

坂木にハマったきっかけは、朝の情報番組の料理コーナーを見てからだった。


‐今日から料理コーナーを担当することになりました、坂木慎です。


テレビから聞こえてきたその声と、テレビに映ったその笑顔に。
一瞬で、落ちた。
それは恋と呼んでもいいように、落ちた。

集められるものは、集めまくって、結果、DVDもものすごい数になった。

彼の人気に火をつけた特撮モノですら、放送されていたのは日曜の朝の30分間だが、1年続いた番組だ。
その他、その特撮モノでは映画も3本撮られている。
その後、若手俳優が起用される時間帯のテレビドラマへの出演も増え、それを揃えただけでもそこそこの量だった。

それらがずらりと並んでいる棚を見て、町田は笑い転げているのである。
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