まだ、恋には届かない。
こと、仕事においては、町田と亜紀はいいコンビなのだが、仕事抜きとなると、決していいコンビではない。
仲が悪いというわけではないのだが、ケンカなのか、じゃれ合いなのかよく判らない、くだらない言い争いをよくする。
延々と、誰かが止めないと、それこそ互いに声を枯らすまで続ける。
最初の内こそは笑って聞いている周囲の者たちが、しまいには迷惑顔で顔をしかめてしまうというケンカを繰り広げる、社内の名物と化している迷惑コンビだった。

その始まりは、今から7年前。2人がまだ新入社員だったところの飲み会に遡る。

亜紀は酒に強い。
『私、今までつぶれたことないですよ』と言う言葉を聞いた先輩たちが、ならばと亜紀に飲ませ続け、挙げ句、全員が返り討ちにあって酔いつぶれた。
町田も面白がって飲ませ、つぶれた1人だ。

結局、亜紀はそのまま1人で朝まで飲み続け、翌朝、飲み会に参加した男子社員たちが二日酔いでぐったりしているにも関わらず、亜紀はけろっとして顔で仕事をしていた。
その様子に、化物だなと町田はぼやき、それを聞いた亜紀は、男のくせにだらしないと町田を笑い、それからなくとなく、お互いがお互いを、異性のカテゴリーから外してしまった。

亜紀にとって町田は同期の仕事仲間。
町田にとって亜紀は同期の仕事仲間。

そういう関係になった。

2年前からは、そこに上司と部下という名詞も付属された。

互いに性を意識していないから、大抵のことはズケズケと明け透けに言いあう。
他の者に言ったら、セクハラだパワハラだと言われてしまいそうなことでも、町田は亜紀に対してだけは、そんなことを気にすることもなく言う。
対する亜紀も負けてはいない。それにきっちり応戦して、ときには町田をやり込める。男のプライドとやらが傷つこうがなんだろうが、構うことなく物を言う。

だから、言い争いが絶えない。
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