永遠を繋いで
やはり現実は甘くはないらしい。
LHRはあたしの希望に反し、運命の赤い糸について担任が延々と言葉を綴っていく。楽しそうに談笑する女子を横目に、あたしは頬杖をついてぼうっとその話を流すように聞いていた。
ついこの間までは、あたしだってあの子達と同じだった。早く赤い糸が見えるようになるといいね、なんて笑って心待ちにしていたのだから。

あたしのような事例は本当に稀だ。
本人同士が惹かれ合って交際を始める、というより、元より決まっていた運命の相手を本能が直感で感じ取って引き合うのだそうだ。
だからほとんどの人は、一生のうちに一人の人間としか交際はしないのだとか。浮気や不倫となれば話は別だそうだが。
しかしそんな話のおかげか、ここ数年の離婚率、独身者の数は大幅に減ったと聞いたのが記憶に新しい。

ただの噂でしかなかったはずなのに、今やそれは社会的に取り上げられるようになり、授業の一貫として扱われるようになった。最初は半信半疑だった人も、実際目に見えると疑う者は出なくなっていた。現に、あたしも自分の目で見てしまったので、その現実は受け入れている。

もしかしてこのまま赤い糸が現れることのないまま、独身者として過ごすことになるのではないかと思ってしまうことがある。そんな稀な体験など、もう二度とごめんだ。
小さく溜め息を吐くと、涼太が机に突っ伏し欠伸をしながらつまらなそうに話をかけてきた。

「…暇だな」

「今まで寝てたくせによく言う」

口を尖らせるその顔はまるで子供のように幼い。
その横顔を眺めながら、ねぇ、とあたしは涼太に問い掛ける。

「涼太は赤い糸信じてる?」

「…そりゃ、こんだけ色んな奴に見えてたら、信じるしかねぇよ」

二人で教室をぐるりと見回す。
クラスメート達の半数以上の指に絡まる赤い糸。最初長い糸で繋がっていたそれは、気持ちが通じ合い交際が始まると共に、指輪のように絡み付いた部分だけが残るのだ。言わば運命の人と自分を結ぶ証。それが消えた人を、未だ聞いたことがない。
見えるのに触れられないなんて、なんとも不思議な存在だ。そんな非現実的な存在を見慣れてしまったあたし達も、なんとも不思議なものである。
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