永遠を繋いで
下校時間が過ぎ、誰もいなくなった教室も退屈なので茜くんを迎えに行こうと部室の方へ向かった。丁度終わった所なのか、ジャージ姿のサッカー部員がグラウンドから戻ってくるのが見えた。その中に、茜くんの姿は見当たらない。きょろきょろとグラウンドを見ていると、後ろから聞き慣れたテノールがあたしの名前を呼んだ。
振り返れば、既に着替え終わっていたようで、ワイシャツに黒いカーディガンを羽織った茜くんが立っていた。部活で走り回っていたからか、前髪が汗で少し張りついている。
「すいません、迎え行こうと思ったんですけど」
「ううん、大丈夫だよ。おつかれ」
「…っす」
額に流れる汗に手を伸ばし拭ってやると、気持ちよさそうに目を閉じた。肌が火照っているからだろう、あたしの手が冷たくて気持ちいいようだ。汗をかいていても涼しそうな顔は変わらないのに、触れた肌は随分と熱を帯びている。いつもの低体温が嘘のようだ。
「帰ろっか」
「はい」
何も言わなくても車道側に立って歩幅を合わせてくれる。朝も思ったが、その行動があまりにも自然で、見た目に反して紳士である。茜くんの耳についたシルバーピアスが輝くのを見ながらぼんやり思った。
そういえば、あの二人うまくいきましたね、と思い出したように口を開いた。部活に行く前に会い少し茶化してやったようだった。いつものことなのでからかわれて赤面する蓮が目に浮かぶ。あたしがそんな想像をして笑うと、でもよかったですよね、と茜くんは満足気に言った。なんだかんだ、蓮は特別仲の良い先輩だと聞いていたし彼も嬉しいのだろう。
そうだね、と相槌をうっていると、歩きながら欠伸をひとつ。
今日の朝はいつもより早かったからだろう、少し眠そうだ。
「眠そうだね」
「ちょっとだけ」
「無理して合わせなくていいのに」
「大丈夫ですって」
少しだけムキになる表情が可愛くて口元が弛む。それに気付いたのか、茜くんは何笑ってんすか、と口を尖らせた。
そうこうしているうちに、あっという間にマンションの前につく。じゃあまたね、と振り返れば、茜くんの手があたしのカーディガンの裾を掴んだ。どうしたの、と首を傾げると、心なしか茜くんは戸惑っているように見えた。少し目を泳がせたと思えば、急に真剣な顔で見つめられ、あたしもなんだか緊張してしまう。
「明日からテスト前で部活休みなんです」
「?うん」
「…一緒にテスト勉強しません?」
「え、」
拍子抜けして思わず笑いがこぼれた。何事かと思えば、そんなことか。
不安気な表情の茜くんに気付き、すぐに返事を返す。
「ごめんごめん。いいよ、一緒にしよ。学校終わったらそのまま家においで」
「はい」
無表情の中に安堵感が現れる。
じゃあまた明日、と裾を掴んだ手が離れていった。あたしも明日ね、と手を振って茜くんの背中を見送った。
振り返れば、既に着替え終わっていたようで、ワイシャツに黒いカーディガンを羽織った茜くんが立っていた。部活で走り回っていたからか、前髪が汗で少し張りついている。
「すいません、迎え行こうと思ったんですけど」
「ううん、大丈夫だよ。おつかれ」
「…っす」
額に流れる汗に手を伸ばし拭ってやると、気持ちよさそうに目を閉じた。肌が火照っているからだろう、あたしの手が冷たくて気持ちいいようだ。汗をかいていても涼しそうな顔は変わらないのに、触れた肌は随分と熱を帯びている。いつもの低体温が嘘のようだ。
「帰ろっか」
「はい」
何も言わなくても車道側に立って歩幅を合わせてくれる。朝も思ったが、その行動があまりにも自然で、見た目に反して紳士である。茜くんの耳についたシルバーピアスが輝くのを見ながらぼんやり思った。
そういえば、あの二人うまくいきましたね、と思い出したように口を開いた。部活に行く前に会い少し茶化してやったようだった。いつものことなのでからかわれて赤面する蓮が目に浮かぶ。あたしがそんな想像をして笑うと、でもよかったですよね、と茜くんは満足気に言った。なんだかんだ、蓮は特別仲の良い先輩だと聞いていたし彼も嬉しいのだろう。
そうだね、と相槌をうっていると、歩きながら欠伸をひとつ。
今日の朝はいつもより早かったからだろう、少し眠そうだ。
「眠そうだね」
「ちょっとだけ」
「無理して合わせなくていいのに」
「大丈夫ですって」
少しだけムキになる表情が可愛くて口元が弛む。それに気付いたのか、茜くんは何笑ってんすか、と口を尖らせた。
そうこうしているうちに、あっという間にマンションの前につく。じゃあまたね、と振り返れば、茜くんの手があたしのカーディガンの裾を掴んだ。どうしたの、と首を傾げると、心なしか茜くんは戸惑っているように見えた。少し目を泳がせたと思えば、急に真剣な顔で見つめられ、あたしもなんだか緊張してしまう。
「明日からテスト前で部活休みなんです」
「?うん」
「…一緒にテスト勉強しません?」
「え、」
拍子抜けして思わず笑いがこぼれた。何事かと思えば、そんなことか。
不安気な表情の茜くんに気付き、すぐに返事を返す。
「ごめんごめん。いいよ、一緒にしよ。学校終わったらそのまま家においで」
「はい」
無表情の中に安堵感が現れる。
じゃあまた明日、と裾を掴んだ手が離れていった。あたしも明日ね、と手を振って茜くんの背中を見送った。