永遠を繋いで
なんだか今日は目覚めが良かった。
時間に余裕もあり、身支度を整えて久し振りに朝キッチンに立った。我ながら今日の弁当は出来が良いと自画自賛してしまう。
両親が海外を飛び回って一人が長いせいか、料理はもういつ嫁に行っても安心なほど上達した。次に日本に来るのはいつと言っていたか、もうそれすら記憶は曖昧だ。仕事だから仕方がないとは分かっているし、そのおかげでこうして裕福だと言える生活を送れているのだが、一人だと再認識してしまうと少し寂しい。

付き合っていた時は、よく元彼が来ていたな、と一瞬頭を巡る。しかしそれもいつからなくなったか、もう大分前のことだったと思う。思えば彼の気持ちはその時からあたしから離れていたのかもしれない。あの可愛い女の子が、好きだったのかもしれない。

考え出したら止まらないのはあたしの悪い癖だ。胸が苦しくなる。
もうすぐ、茜くんが来る時間だ。今泣いたら茜くんは絶対に気付く。また苦しそうな、胸を締め付けられるような顔をさせてしまう。

気を落ち着かせようと、他のことを考えなくてはと、深呼吸をする。そうすると、タイミングを見計らったかのように、部屋に響いた無機質な音。

茜くん、だ。

「もしもし」

『おはようございます。だんだん着くんで、待っててください』

「うん、わかった」

『じゃあまた後でね、先輩』

携帯をポケットに入れて、鞄を肩にかける。
不思議だ、茜くんの声は。ほんの少し、些細な会話を交わしただけなのに、随分と気持ちが落ち着いた。心に温かいものが込み上げるような、心地良い感覚。
初めて茜くんの前で泣いた時も、そうだったかもしれない。彼は真美達とはまた別の、安心感を感じる。まるで心の安定剤のようだと思う。

昨日何も考えずに発したが、家に男の子が来るのは元彼以来だ。
家に一人、じゃないのも今日が久し振りだ。

楽しみ、だなぁ。

勉強は好きではないけれど、こういうことがあるならテスト期間もいいかもしれない。そんなことを思いながら、待ち合わせの場所へ向かった。
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