永遠を繋いで
「あれ、」

「何、真咲先輩」

「珍しいねぇ、前髪」

「あぁ、これ」

いつも綺麗にセットはされているが、目についたのは真っ黒なあげられた前髪に光るカラフルなピン留め。彼にしては珍しく、整った顔がよくうかがえる。
それを触りながら、これさ、と茜くんの口が言葉を発した。

「最初に話した時、真咲先輩が似合うねって言ったから」

「…覚えてたんだ」

「嬉しかったんで」

去年の春、だっただろうか。まだ入学したばかりの茜くんが、蓮と涼太といたところにあたしが偶々会って紹介されて。確か、最初はもっと幼くて、生意気で、無愛想だった。
今では随分やわらかくなったというか、大人びたというか。ほんの一年前のことなのに、すごく懐かしい気がする。去年の今頃は、こうして当たり前のように隣にいるなんて考えもしなかった。茜くんと過ごす時間は、今やあたしの日常の一部になりつつある。
人の関わりは不思議だ。そんなことを頭の隅で思っていると、茜くんが一瞬曇った顔をした。どうしたの、と喉まで出掛かった言葉は声になることなく消える。

校門の前で、あたしの足が止まった。動かない、言うことを聞かない。体を貫いた、一筋の痛み。
茜くんの制服の裾を掴んで、あたしはその目の前を歩く人を見つめた。見たくないはずなのに、視線はそこにしかいってくれない。

ふと、目が合った。すぐに反らされ、隣を歩く彼女の手をとって歩いていく。
あそこはもう、あたしの場所じゃない。頭では理解するのに、見てしまうとやはり心が追いつかない。

あぁ、泣きそう、かもしれない。

俯いて立ち尽くしていると、真咲先輩、と茜くんの声が優しく響いた。同時に手をとられ、ゆっくり歩き出す。

「茜くん、あの、」

「…嫌?」

「そうじゃないけど、」

「大丈夫っすよ、そんな顔しなくても。先輩の隣、俺がいるじゃん」

スキンシップが多いのは大分慣れたが、人前で堂々とされたのは初めてで、驚きと気恥ずかしさが込み上げた。けれど、それ以上に繋がれた冷たい手から伝わるのは安心感だった。
茜くんは、あたしを安心させる方法をあたしよりも知っていると思う。

「男前ですね」

「今更ですか?」

楽しそうに喉でくつくつと笑う茜くんに、あたしも笑った。

その様子を見ていた友人にからかわれて赤面することになるも、繋がれた手を離したくないと思ってしまったのはあたしの秘密。


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