永遠を繋いで
放課後図書室で勉強すると言った三人の誘いに断りをいれて二年生のフロアに向かおうとすれば、迎えが来てるよ、とクラスメートが教えに来てくれた。
お礼を一言告げ、廊下へ出ると茜くんが壁に背を預け欠伸をしていた。茜くん、と名前を呼べば眠そうな目が嬉しそうに細められる。
行きましょ、と言いながらぽん、と頭に手を置かれた。何かと首を傾げると、撫でたくなる位置に頭があるんで、と喉でくつくつと笑う。そこを通りかかった先程のクラスメートがくすくす笑いながら確かにね、と同じようにあたしを撫でて帰っていった。
確かにあたしの身長は他の子達に比べれば低い位置にある。ただそれはあたしにとって少々コンプレックスを感じているのは事実で、どうにも複雑な気分だ。なにかと可愛がられる点は得だと思うが、身長の高い子には憧れる。今だって、茜くんの目線はあたしより頭一つ分以上高いわけで。
そんなことを悶々と巡らせていると、茜くんが意地の悪い笑みで恐ろしい言葉を言い放った。

「あんまりそんな可愛い顔で見てるとここで襲いますよ」

いつもなら心地よいはずのテノールが、いやに色気を含んで耳に響く。こんな男の人の声なんて、聞いたことがなくて、顔に熱が集まるのに気付き視線を外せば、またくつくつと笑うのが聞こえた。

「いちいちいい反応くれますね」

「からかわないの!」

あたしの顔は未だ熱いままだ。顔を背けて歩くあたしの手を掴まれ、急な行動に驚いて反射的に茜くんを見上げる形になる。掴まれた手のせいで赤くなった顔を隠すのもかなわず、切れ長の鋭い目は視線を捕らえ、まるで反らすことすら許されない感覚になる。
息が止まりそう、だ。あたしが抵抗しないことに気を良くしたのか、茜くんの指がゆっくりとあたしの指を絡めとっていく。所謂、恋人繋ぎだ。今日はいつにも増してスキンシップが多い。心臓が騒がしい。

周りにいた生徒はざわりとどよめく。
茜くんの鋭い目はあたしではなく、違う方に向けられていた。視線を辿ればそこにいたのは昼間会った後輩の男子二人組が目を丸くして立っていた。

「行きますよ」

「あ、うん」

いつもより早いペースで歩く茜くんはあたしの方を見ないまま、ぼそりと言葉を吐き出した。

「あいつ、今日先輩の所行った奴。先輩のこと可愛いって言ってたんですよ」

「え、」

「変な奴に目つけられないでくださいよ」

「あの、」

「隙作んないでください」

繋がれたままの手にぎゅっと力が込められ、茜くんを見上げると不機嫌そうに眉を寄せていた。

あぁ、嫉妬されてる。そう気付いたらあたしの口元は弛んでいった。なんだか可愛いな、なんて思ってしまって。

「そんな心配しなくても、茜くんが一番可愛い後輩だよ」

「……まぁ、今はそれでいいっすわ」

すぐに機嫌を直した茜くんに今度は声を出して笑えば、軽く頭を小突かれた。

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