永遠を繋いで
なんとなく屋上に足を運んだ日だった。夏の暑い日差しの中屋上に来る人間は少ない。最近見つけた絶好のサボリポイントだ。
空を眺めぼうっと扉の前に立ち尽くしていると、背中に軽い衝撃が走った。ふわりと風と共に香ったのは間違えるはずもない。真咲先輩だと、瞬時に頭が判断した。
ごめんなさい、と聞こえたと同時に振り返れば、思ったより近い距離に居たようで大きく目を開いた真咲先輩が俺の視界を占める。大丈夫ですか、と訊けば笑顔でうん、と短く返される。
上手く笑えているつもり、だろうか。交わったままの黒い瞳は、揺れているというのに。よく見なければ気付かない些細な違いかもしれないが、それでも誤魔化しきれるわけがない。初めて見る、泣きそうな顔だ。

見た瞬間込み上げたのは、心臓を掴まれたような息苦しさ。感じたことのない苦しい感覚が、俺を襲う。まるで自分が傷付いたようだ。
言葉より先に体が動いていた。
感じた体温はひどく温かい。しかし抱き締めた体は思っていたより小さく、少し力を入れただけで折れてしまいそうだ。
拒絶は、されない。離さなくてもいい、という肯定の意ととることにする。

腕の中の先輩が、ぽつりぽつりと独り言のように話し出す。
彼氏と喧嘩した。理由は自分より俺達との時間を多く過ごすこと。そして、初めて信じられないと言われたこと。謝っても許さないの一点張り。それでも最終的には仲直りはしてきた。だから、大丈夫。

なんて小さい男かと、腹が立った。不安をぶつけたいのは彼女だって同じだ。しかしあの男は、きっと彼女の不安を知らない。不安でいっぱいになりながら特別仲の良いマネージャーと自分を、悟られまいとしながらも見つめている瞳を、あいつは知りはしないのだろう。
彼女の弱い部分を、強がりを分かろうとはしないのだろう。
< 24 / 76 >

この作品をシェア

pagetop