永遠を繋いで
「…ごめんね。もう大丈夫ーー」

「無理して笑わなくていいっすよ」

俺は言葉を遮った。大丈夫なわけがない。少し体を離して顔を覗けば、今にも涙が零れそうな顔をしていた。
胸に沸く苦しさに堪えながらなるべく優しく、声をかけていく。

「我慢しないで泣いてください」

「……」

「気が済むまで、たまには泣いた方がいいです」

涙が張った瞳が俺を見つめた。
俯いて額を俺の胸に預けるように寄りかかる小さな体を、今度はきつく抱き締める。
シャツが湿る感覚がする。先輩は小さな子供のように、声を出して泣き出した。
俺じゃない男のせいで。他の男に心をかき乱されて、泣いている。
再び俺の中を何か良くない感情が支配する。
彼女の泣き顔を見ることが辛い。その心を支配する存在が、辛い。

俯く前の歪められた顔は、泣きそうだったからだろうか。
隠すことが出来なかった俺の表情に、優しいあなたはそれにすら心を痛めたのだろうか。
分からない、けれど。
痛い、心が。
好きな人が自分のことを好きではないと、その事実を突き付けられるのは、どうやら辛いことらしい。

「茜くんは優しいね」

涙声で、先輩は言う。
頬についた涙の跡を手で拭ってやると、困ったように、けれどいつものように笑った。

「ごめんね。人前では泣かないようにしてたんだけど…あたしが泣いたの、秘密にしてくれる?」

「…はい」

不謹慎にも、ほどがある。この状況で、彼女と秘密を共有出来ることが嬉しい、だなんて。

俺が思っていることを知ったら、先輩は俺をどう思うのだろう。
俺が優しいだなんて、先輩の過大評価だ。
けれどこれを優しさと思ってくれるのなら、先輩が辛い時の、居場所になりたい。
いつだって頼ってほしい、そう言えば、先輩はやっぱり優しいよ、と優しく笑った。
傍にいる理由にしたい、俺のただのエゴに彼女は気付かない。
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