永遠を繋いで
『黒瀬真咲』の名前を探して電話をかける。
かけるのは決まって放課後だった。誰にも気付かれないように、言わば密会するために。
彼氏でもない男と二人きりで会って抱き合っているのだから、秘密にするのは当然と言えば当然なのだろうが。浮気、になるのだろうか。ふと、そんなことを思う。
しかし相変わらず真咲先輩が泣く時は、腕の中に閉じ込めるようにきつく抱き締めた。先輩も拒絶の反応は示さない。
離したくないと、何度思ったことか。離れなければいいと、何度願っただろう。

そんなに辛いならやめればいい。あの人の何がそんなに好きなんだ。俺を、選べば良い。
どれも言葉にならずに俺の中で消えてしまう。
だって、人を好きになるのに明確な理由なんて存在しない。自分がそうであるように。簡単にやめれるくらいなら、きっともう一緒になんていない。
それでも彼女の好きな人は、あの人。そしてそれは、あの人も同じで、何だかんだ好き合っているからこそ一緒にいるのだと、まだ自分の入る隙は出来ていないと、そう思っていた。

しかしどうやら思い違いをしていたらしい。
あの男は、部室で女と抱き合っていた。見間違うはずもない、不本意にも見慣れたその男の腕の中にいる女は、マネージャー。真咲先輩の、ずっと不安の種として見ていた、女。
頭を殴られたような衝撃が走った。何をしているんだ。ここから離れろ、と頭は命令するのに、動けない。
あぁ、吐き気がする。

立ち尽くしていると、二人の目が俺を捕らえていることに気付いた。
今更体を離そうと、見てしまったのだからもう無駄なのに。
吐き気は治まってはくれないが、そんな冷静な考えが過ぎる。今俺はきっと、冷たい目をしているのだろう。マネージャーが怯えたような目で俺を見ている。それを庇うようにして高橋先輩が立つ。
馬鹿か、この男は。その行動に苛々する。最早先輩と敬うような人間ではない。

「何してんですか」

非常に面倒な状況だ。さっさと立ち去りたいと思う頭とは逆に、口は勝手に言葉を吐き出していく。自分でも驚くくらい声が冷たい。
俺はこんなに饒舌だっただろうか、と浮かんだ場違いな考えを頭の隅に追いやる。

「先輩達最低っすね」

そう吐き捨てるように言えば、俺に殴りかかったのは高橋。
予期せぬ行動に反応しきれずまともにダメージを受けてしまう。マネージャーは短く悲鳴を上げ、俺を呼びに来たのか蓮先輩と涼太先輩が仲良く扉を開け入って来たのは同時。

あぁ、本当に面倒だ。
< 27 / 76 >

この作品をシェア

pagetop