永遠を繋いで
一言で言えば、あの後は散々だった。
高橋がマネージャーとこそこそしていたのは二人も薄々感じていたようで、有り得ない面子と不穏な空気で何かを察したのか、涼太先輩がキレた。口が悪いのはいつものことだが、鬼のような形相で怒鳴り散らした。あの軽薄でふざけてばかりいる涼太先輩が、だ。
女にだらしないのはお前に言われたくない、なんてそこで反論されたものだから、頭に血が上りきった涼太先輩は勢い良く殴りかかった。いや、未遂に終わった。蓮先輩の怒声によって。
その場にいた全員が、まるで時間が止まったかのように動かなくなった。視線は全員、蓮先輩へ向く。あんな地響きのように恐ろしい声を、穏和でへたれな彼から聞くことになるとは思いもしなかった。場違いながらもその姿に感心してしまったのは心にとどめておく。

俺達の友達をこれ以上傷付けたら許さない、それだけ吐き捨てると俺と未だにぽかんとしていた涼太先輩を引っ張って部室を出た。鞄も持った所を見るとそのまま帰るつもりらしい。この気分のまま部活に戻るのも嫌だったので丁度いい。

真っ直ぐ向かったのは蓮先輩の家で、口元に出来ていたらしい傷を随分雑だが手当てをされた。

「…真咲先輩あれ知ってんですか」

「いや、多分俺達三人しか知らない」

「言った方が良くね?今日で二回目なんだ、ああいう奴は懲りねぇよ」

「真咲先輩があいつをどれだけ好きか知ってるでしょ、先輩も。他人の口からそんなこと聞いたらどれだけショックかわかんないっすよ」

「まぁな。あの二人もそろそろ時間の問題だと思う。大体二年近く真咲と付き合ってんだ、どうするのがいいかなんて高橋本人も分かるだろ」

諭すように蓮先輩が言えば、涼太先輩は渋々引き下がる。
時間の問題だというのは俺も納得だった。束縛は相変わらずだけど、最近ほとんど会ってないんだ、と寂し気に真咲先輩がこぼしていたことを思い出す。
多分近いうちに別れたという報告を聞くことになるだろうと思う。これは確信だ。

事実を知っているのに、言えないことは心苦しい。いつか別れると気付いていながら、それを何も知らない本人から事後報告されるのは複雑だ。だって真咲先輩は今でもあいつが好きで、運命の相手であることを信じている。恋は盲目、とはよく言ったものだ。
そういう真咲先輩を見てきたからこそ、相思相愛などと思い違いをしていたのかもしれない。入り込む隙が出来た、はっきり言えば俺にはチャンスだ。

俺はやはり不謹慎で貪欲だ。
真咲先輩があいつを想って涙を流すのも、その涙を止めるのもその時で最後にしてあげるから、許してはくれないだろうか。
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