永遠を繋いで
真咲先輩が別れたと聞いたのは学年が上がってすぐのことだった。
彼女の口からではなく、周りの騒ぎによって聞かされることになったのだが。交際している異性以外に赤い糸が現れるのは極めて稀である、と誰かに聞いたのが記憶に新しい。だからこそ朝から真咲先輩の名前があちこちで飛び交っているのだろう。
大丈夫、だろうか。すぐにでも駆けつけてやりたいと思うのに、周りがそれを許さないとでも言うように俺を囲む。
俺が真咲先輩と親しいという理由から、うんざりするほどの質問責め。関係無いくせになんて無神経な奴等かと苛立ちが募る。真咲先輩がどんな気持ちでいるのか、この目の前に立ちはだかったいかにも頭の悪そうな女はそんなこと考える頭も持ち合わせていないのだろう。
無遠慮に詰め寄る女に自分の顔が不快感で歪むのを感じる。無視を決め込んでいたものの、あまりのしつこさに睨んでやれば泣き出す始末だ。
それを見ていた周りがこそこそと何か話し出す。なんとも面倒極まりない。

「もう関わんないでくんない」

何か言われた気がするが振り返ってはやらない。
近くで一部始終を見ていたであろう友人が後処理は任せろと何とも頼もしい台詞を吐いたので、そのまま三年生のフロアへ走った。どうせなら最初から助けに入れと思ったが、午後のサボリも上手く誤魔化してくれるならチャラにしてやろう。

部活以外でこんなに走ることはないだろう。人が邪魔だ。ちらちらと感じる視線を無視して教室に入る。

「あ、茜くん」

気付いた真咲先輩が手を振ってくれる。優しい顔で微笑まれると俺もつられてしまう。
いくつか会話を交わして、真咲先輩の腕を引いて連れ出す。足は自然に、行き慣れた屋上へ。
冷やかして見送った涼太先輩の顔が引きつったのを、俺は見逃さなかった。自分で友人のポジションを望んで変わろうとはしないくせに。
俺は今のまま、ただの後輩の位置で終わる気はありませんよ。その意味を込めて涼太先輩に向け不敵に笑ってやる。

これはチャンスだ。やっと隙が出来た。入り込むには十分だ。
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