永遠を繋いで
少し汗ばんだ手を離して、真咲先輩の体に腕をまわした。
なあに、と俺に向ける口調は優しい。分かっているくせに。顔を見れば、瞳は揺れ涙が溜まっていた。
その表情に俺の顔が歪む。やはり泣き顔を見るのは心苦しい。
ひとつひとつ、言葉をかけていけば漏れ出す嗚咽に、腕の力を強めた。反射的なのかは分からないが、制服を掴んでいただけの小さな手が背中にまわされたことに口元が弛む。
先程よりも近くなった距離に、柄にもなく心臓が高鳴る。忙しく動くこの心臓の音は、彼女に聞こえるのだろうか。

どれくらいそうしていたのか、真咲先輩が涙に濡れた顔を上げゆっくりと体が離れる。泣き止みつつあるその表情に自分の顔が穏やかになる気配がする。それにつられるかのように真咲先輩の表情が弛んでいく。
小さく聞こえたありがとうに心が満たされ、また口元が弛む。先程から弛んでばかりだ。
可愛いと言われて照れたように顔を隠した真咲先輩が可愛くて、すり寄るように肩に顔を埋めた。遠慮がちに頭を撫でる温かい体温が心地良い。

上目遣いでかっこいいと言われたのは不意打ちだった。ずるいだなんて、俺の台詞だ。

「…それがずるいっすわ」

また顔がだらしなく弛みそうになるのを必死に堪え笑顔を作りはぐらかす。
心なしかいつもより体温が上がっているような気がする。

授業の終了を告げるチャイムが響くのを遠く聞く。
冗談だと分かってはいるけれど、離れたくない、と言った彼女に不意打ちをくらうことになるのは、あと一時間後の話。
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