永遠を繋いで
少しそわそわしていた。それもこれも兄が彼女の父親は恐ろしいものだなどと散々余計なことを吹き込んできたせいだ。
色んな葛藤をしてやってきたわけだが、ほぼ一人暮らし同然と聞いて拍子抜けしたと同時に安堵を覚える。
通された部屋は少しばかり殺風景だった。生活に必要最低限の物しか置いていない、ごくシンプルな広い空間が広がっている。女子供のいる家は可愛らしい物が無条件に溢れていると思っていたが、一概には言えないようだ。
家とは正反対の環境にそわそわしてはいたものの、居心地は悪くない。
始めようか、その声に俺も大人しくテーブルに向かった。友人から拝借したさぼっていた分のノートをまとめる。山掛けは当てにならないので、常に丸暗記だ。さほど時間は掛からないその作業を終えてちらりと向かいに視線を投げた。
シャープペンが紙を滑り綺麗な文字がルーズリーフに綴られていく。
何度目になるか、真咲先輩を見ると視線が交わった。まじまじとは見ていなかったが、黒く縁取られた眼鏡が見慣れなくて、けれどよく似合っていて。思わず一瞬見惚れてしまう。
それを外す仕草すらも綺麗に見えて、俺の中によからぬ何かが渦巻いていくのに気付いた。
キッチンに立った真咲先輩の後ろから、覆い被さるように小さな体に腕をまわした。驚いたのか、ぴくりと肩が動く。感じる体温は自分のそれよりも温かくて、熱を奪うようにぴったりと密着した。
胸に渦巻いた何かは存在を主張するかのようにどんどん大きくなる。どうしたの、その問いかけに焦りの色が滲んだことに気付いた。
反射的に口に出した言葉に少しばかり後悔する。これではただの変態ではないか、と。
離して、と言う割に抵抗らしい抵抗はしない。本当に嫌なら振り払ってでもやめさせるべきだと、俺は思う。彼女が嫌なら無理強いはしない。
けれど受け入れるような態度だからそこに付け入ってしまうのだ。
ただ可愛いだけの後輩に、ここまで勝手を許すのだろうか。俺のことをどう思っているのだろうか。俺の気持ちに、少しでも気付いているのだろうか。
「変なことしたら嫌いになるよ」
「…ごめんなさい」
言うや否や体を解放する。嫌われてしまっては元も子もない。
そういえば、佐野が節度ある距離を保てと言っていたのをぼんやりと思い出す。確かにここ最近はよく触れ合っていたような気がしないでもない。しかし恋愛初心者の俺に『丁度良い距離』は分かりかねるのだ。
少し様子をみることにしようと、密かに決意する。
彼女との丁度良い距離を。
色んな葛藤をしてやってきたわけだが、ほぼ一人暮らし同然と聞いて拍子抜けしたと同時に安堵を覚える。
通された部屋は少しばかり殺風景だった。生活に必要最低限の物しか置いていない、ごくシンプルな広い空間が広がっている。女子供のいる家は可愛らしい物が無条件に溢れていると思っていたが、一概には言えないようだ。
家とは正反対の環境にそわそわしてはいたものの、居心地は悪くない。
始めようか、その声に俺も大人しくテーブルに向かった。友人から拝借したさぼっていた分のノートをまとめる。山掛けは当てにならないので、常に丸暗記だ。さほど時間は掛からないその作業を終えてちらりと向かいに視線を投げた。
シャープペンが紙を滑り綺麗な文字がルーズリーフに綴られていく。
何度目になるか、真咲先輩を見ると視線が交わった。まじまじとは見ていなかったが、黒く縁取られた眼鏡が見慣れなくて、けれどよく似合っていて。思わず一瞬見惚れてしまう。
それを外す仕草すらも綺麗に見えて、俺の中によからぬ何かが渦巻いていくのに気付いた。
キッチンに立った真咲先輩の後ろから、覆い被さるように小さな体に腕をまわした。驚いたのか、ぴくりと肩が動く。感じる体温は自分のそれよりも温かくて、熱を奪うようにぴったりと密着した。
胸に渦巻いた何かは存在を主張するかのようにどんどん大きくなる。どうしたの、その問いかけに焦りの色が滲んだことに気付いた。
反射的に口に出した言葉に少しばかり後悔する。これではただの変態ではないか、と。
離して、と言う割に抵抗らしい抵抗はしない。本当に嫌なら振り払ってでもやめさせるべきだと、俺は思う。彼女が嫌なら無理強いはしない。
けれど受け入れるような態度だからそこに付け入ってしまうのだ。
ただ可愛いだけの後輩に、ここまで勝手を許すのだろうか。俺のことをどう思っているのだろうか。俺の気持ちに、少しでも気付いているのだろうか。
「変なことしたら嫌いになるよ」
「…ごめんなさい」
言うや否や体を解放する。嫌われてしまっては元も子もない。
そういえば、佐野が節度ある距離を保てと言っていたのをぼんやりと思い出す。確かにここ最近はよく触れ合っていたような気がしないでもない。しかし恋愛初心者の俺に『丁度良い距離』は分かりかねるのだ。
少し様子をみることにしようと、密かに決意する。
彼女との丁度良い距離を。