永遠を繋いで
屋上には誰もいなかった。日差しが強くて暑い。
低体温な茜くんにしては珍しく、未だ掴まれた手に汗が滲んでいた。

「先輩」

ふわり、彼の体温に包まれた。意外にしっかりとした体は、あたしの体を離れまいというようにきつく抱きしめる。行き場をなくしたあたしの手は、反射的に目の前にある制服をきゅっと掴んだ。
なあに、と優しく問えば、顔をあげた茜くんは苦しそうに顔を歪めてあたしの目を捕らえた。

「前も言いましたよね」

「うん」

「我慢すんのやめてくださいって」

「うん」

「無理して笑わなくていいから」

「…うん」

「気が済むまで、泣いてください」

「…ん」

ぽたり、ぽたりと頬を伝った涙は、茜くんのシャツに染みを作っていく。一度溢れ出した涙は、次々と止まることを知らないように零れていった。
あたしの背中に流れる黒髪を、茜くんの大きな手が優しく梳く感覚に、ひどく安心して嗚咽が止まらない。

元彼と喧嘩した時も、不安に押しつぶされそうでどうしようもない時も、あたしが泣きたい時茜くんはいつも隣にいてくれた。
強がるあたしに気付いて、弱さを吐き出す場所をくれた。どうして気付いてくれるの、だとか、情けない所を見せてごめんね、だとか、色んなことが頭を巡るのに、どれも言葉にはならない。
茜くんは文句も言わずに、ただただ優しくあたしの弱さを受け止めてくれる。

「茜くん、」

涙でぐしゃぐしゃの顔で見上げると、やっぱり優しく笑んでいた。
普段無表情がちな彼の、たまに見れる、あたしの好きな顔。その顔を見るだけで、あたしの心にあったモヤモヤとしたものが晴れていく気がした。さっきまでの失恋の悲しさも、既に薄れつつある。
名前を呼んだまま黙ったあたしに痺れを切らしたのか、今度は茜くんが涙を拭ってあたしの顔を覗き込んだ。



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