永遠を繋いで
「ねぇ先輩、今日カレーがいい」

近所のスーパーで食料品を物色していると、隣りでかごを持った茜くんがあたしのシャツを引っ張った。なんだかその姿に保護者になったような気分になってしまう。
部活が始まれば茜くんが家にいないことが当たり前になる、そう思ってはいたものの、頻度が減っただけで家には相変わらずやってきていた。部活がオフの日は平日でもこうして一緒に夕飯の買い物に来たりもするようになった。
お互い制服でああだこうだ言いながら頻繁に訪れるためか、学校どころか店の人にまで覚えられてしまう始末である。

仲の良いカップルね、なんて品出しをしていたおばさんに言われたことが記憶に新しい。端から見ればあたしと彼はそう見えたようだ。思い出しているとなんだか胸が擽られたような感覚を覚えた。
あたし達は先輩と後輩で、茜くんとの間にあるものは家族愛が一番近いような気がする。きっとお互いに矢印は向いているのだけれど、茜くんのそれはあたしの向けるものとは違う気がするのだ。懐かれている、その例えが一番しっくりくる。だって茜くんがあたしを見つけて寄ってくる姿は、まるで主人を見つけた犬のようで。
それに気付いた時、少しだけ落胆したのは内緒だ。それでも今一番、茜くんに近い女の子はあたしだと思えるからそれでいい。それだけで、今は十分だ。

「そういえば、そろそろ部活引退なんですよね」

「早くない?」

「大会負けちゃったし。もう一年中心になるし実質引退と変わんないですよ」

「そっかぁ。そういえばうちの学校って運動部の引退時期早いもんね」

「まぁいいっすよ。今より一緒に居れるようになりますね」

無表情が和らいだような、あたしの好きな顔。それに加えてらしくないことを言うものだから、胸が高鳴るのを感じた。
平気な顔で言ってのけるのは、わざとなのか計算なのか。

「ずるいなぁ、茜くんは」

「何がです?」

「…こっちの話」

腑に落ちないような顔をしながらも、荷物を持ちながらあたしの隣りを歩幅を合わせて歩いてくれる。肩が触れそうで触れない、微妙な距離。

足りないと思う時もあるけれど、隣りでこうして笑って歩けるだけでもいいかな、なんて思っていること、茜くんは気付いていないだろう。
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