永遠を繋いで
矢田茜が丸くなった。
そう耳にするようになったのはここ最近の話だ。学年は違えども、その容姿と尖った性格で名の知れていた彼の話は出会う前からちらほら聞いてはいた。

勿論、姿形の問題などではなく性格の話である。ここ数ヶ月の間で穏やかになったというか、醸し出す雰囲気がやわらかくなったと、彼を知る人が口々に言うのだ。
あたしからすればそれが茜くんの本来の姿だと思っていた。彼はたまに意地悪を言うことはあってもいつだって優しく、慣れれば笑顔を見せることも増えていったからだ。

そんなことを隣りを歩く蓮と真美に言えば、思い切り反論された。

「あいつの真咲に対しての態度は別人だ。二重人格みたいだし」

「そう?」

「すぐ毒吐くし」

「それはあんたのへたれ具合にも問題がある。ねぇ真咲?」

「へたれじゃないって!…って何見てんの?」

あたしより頭一つ分は高い身長の二人が上に乗りかかる。重みに耐えようとするも前のめりになり、三人で妙な体勢になってしまった。
茜くんだー、と真美の間延びした声が頭の上から聞こえる。蓮もようやく気付いたようで、短く声を上げた。

「あれ告白されてる?」

「ぽいな」

茜くんが告白されている現場を目撃するのは、もう随分と久しぶりだ。
ここ最近、例の話を聞いてからよく告白されていると友人を伝って聞いてはいたが、それはどうやら本当らしい。
呼び出しには応じないとも聞いていたので、今日は偶々捕まってしまったのだろう。いつもの無表情ではあるが、その中に不機嫌さが滲んでいることに気付く。
盗み見るのはよくないだろうが、生憎ここを通過しなければ教室には辿り着けない。かと言ってこの雰囲気の中出て行くわけにもいかず、あたし達はそのまま事が終わるのを待った。

「無理。ぶりっことかきもい。わかったらもう話かけないでくんない」

何とも辛辣な言葉が耳に届いた。
先程まで頬を赤く染めていた女の子はみるみるうちに青ざめ、逃げるようにあたし達の横を通り過ぎていった。驚きと共に安堵があたしの胸を占める。同情はするが自分も大概性格が悪い。

あたし達に気付いたらしい茜くんが先程とは一変、嬉しそうに駆け寄ってきた。蓮が違いすぎだろ、なんて呟いて苦笑するのが聞こえる。

しかしあたしにとっての茜くんはこれが正常であって、これが当然なのだ。もしそれがあたしにだけ許された特権ならば、絶対他の人には譲ってなどやらない。
とりあえずはこの可愛い後輩が向けてくれるその笑顔が近くで見れれば満足だ。
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