永遠を繋いで
玄関どころか窓も電気すらもそのままの状態で、不用心だと軽く小突かれた。そんなに嬉しかったんですか、と彼の言う通りきっとあたしは嬉しかったのだろう。否、嬉しかった。
素直にうん、と返事をすれば呆気にとられたような顔をされる。

「なんか今日全部素直に返されて、こっちが恥ずかしくなるんですけど」

照れたような、戸惑ったような顔が可愛いと思った。
いつもは立場が逆で余裕なのは茜くんばかりだと思っていたから、たまにはいいかもしれない。

こうしているのには理由は二つ。
一つは本当に嬉しかったから、二つめは不安だったから。
嬉しくても、やはりあのジュエリーショップでのことが頭にちらついてしまったから。どうでもいいだとか、うやむやに出来ない気持ちが少なからずあって。
たまには素直にならなければ遠くなってしまうような、離れてしまうような気がしたから。あたしが一番茜くんに近い女の子で、ありたかったから。

いつもと変わらないのに、部屋にいるのに彼から離れられないのは、ほとんどが嫉妬と独占欲。中途半端で、これじゃどんどん駄目になっていくと思うのに離したくないなんて、矛盾している。

「一応プレゼントも用意してきたんですよ」

どこに持っていたのか差し出されたのはシンプルなピアスだった。プレゼント用だと普通ならラッピングでもされているのだろうが、それが入っていたと思われる店のロゴの入った袋を無造作に床に置いた。
何気なくそれに視線をやると、そのロゴに見覚えがあることに気付く。だってそれは、あの時見た店と同じ名前で。

「色々考えたんですよ。女の人がどんなの好きとかもわかんないし…って、聞いてます?」

「うん、ごめん。ねぇ、これ、」

「悩みに悩んで、姉ちゃんにダメ出しされながらそれでも一生懸命選んだんですけど、」

つけてくれますか、苦笑交じりに控え目に言われたそれに、今まで胸につっかえていたものがとれていく。

お姉さん、か、なんだ。
散々胸の内に渦巻いた嫉妬は意味のないものだった。勝手に早とちりしていた自分に可笑しくなってしまって、笑いが込み上げる。

「ありがと。嬉しいよ」

「…っす」

照れたように、けれど満足そうな顔をする茜くんに口元が弛んだ。

ねぇ、あたしも君と同じくらい悩んだと思うよ。心の中で呟いて、きらりと輝くそれにまた笑顔をこぼした。

この後にされたみんなでのお祝いも嬉しかったけれど、それよりもこの瞬間が一番嬉しかったのはあたしだけが知っていること。
たかだか十八年の人生でも、一番心が動かされて一番幸せだと思った、誕生日のこと。
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