永遠を繋いで
いつも通り、迎えにきた茜くんに委員会だと伝えて教室を出たのがつい二十分前。恐らくそのまま教室で待っているだろうと急いで戻ってきたものの、我ながらタイミングが悪かったと思わずにはいられない。

あたしの机に突っ伏すようにしている茜くんと、鞄を取りに来たのだろう、ぺちゃんこな鞄を抱える涼太が隣りに立っているのが見えた。他に人がいないのか、二人以外の声は聞こえない。
醸し出している雰囲気が重くて中に入るのを躊躇い、思わずロッカーの横にしゃがみこんだ。会話が終わったら出て行こう、そう思った時だった。

「付き合わないなら、あいつのことちょうだい」

「何言ってるか、分かってんですか」

茜くんの、戸惑った声が聞こえる。
同じタイミングで、あたしの心臓も嫌に脈打った。

「玩具じゃないんですよ。先輩の気持ち考えて言ってんですか」

涼太は黙ったままで、茜くんの声が次第に荒げられていく。怒鳴り声なんて聞くのは初めてだ。

ここから立ち去った方がいい。頭で警鐘が鳴る。
しかし体が固まって動けない。ただ早く終われと、そう思うばかりで。

「赤い糸は、お前に繋がるってまだ分かんないだろ」

今度は、茜くんが黙り込む番だった。心臓が忙しく動くのを嫌に感じる。
それはあたしがずっと怖かったことで、茜くんと付き合うのを躊躇う唯一の理由。離れてしまうと、また違う人にとられてしまうくらいならと、ダメージを最小限にするためにずっとそれを理由にしてきた。
けれど、そのせいで茜くんが、

「…それは涼太先輩にも言えることっすよ」

「うん、分かってるけど俺は、」

「俺は真咲先輩に無理強いしたくない。あの人の気持ちを優先したいんです。だけど離す気もない。ここまでチャンス窺いながら待ったんだ、先輩が付き合う気になるまで待ちますよ。赤い糸だって俺に繋いでみせる。今の関係で満足なんてしませんよ」

その声色はいつもの彼の、自信やら余裕が含まれていた。
初めて聞いた、茜くんの本音に心が動く。
いつも優しさに甘えて、気付こうともしなかった彼の気持ち。こんなにも想われているのに、今更あたしは何を怖がるのだろう。
いい加減、まだ分からない未来に怯えていないで向き合わなくてはならない。彼の気持ちにこたえなければならない。あたし達のために。

涼太の気持ちにも、あたしの精一杯でこたえなければならない。
もう、かわして逃げてばかりではいられないのだ。
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