シンデレラとバカ王子
「全ては灰音さまを思う親心から。では、我が社の顧問弁護士である、黒瀬匠先生に開封をお願いします」

匠はゆっくりと遺言書を開封していき、ゆっくりとはっきりした口調で読み上げた。

遺産のすべては我が子灰音に相続させる。管理は、三笠敦子にまかせる。

灰音が二十歳の誕生日を迎えたとき、三笠敦子を母として慕う場合は私の正式な妻として認め、財産の半分を彼女へ相続させる。

そうでない場合、直ちに我が家から出て行ってもらう。

日付は父が死ぬ数日前、書面の中の字は確かに父のモノだった。

…遺言のことを要約すると、私の面倒を母親としてしっかりと見た場合のみ遺産を渡す。そうでない場合はさっさと出て行け。

封筒の中には、婚姻届けが入っていた。

「とういうことは、あんたら二人は私とは書類上でも何の関係もなかったってこと」

それだけじゃない、私は赤の他人に家を追い出されたことになる。

「嘘よ!何かの間違いよ」

三笠のおばちゃんの金切り声が部屋の中にこだまする。

「だって、あの人は私に灰音の母親になって欲しいって……」

「たしかに灰音さまをお一人には出来ないと言われた社長は、秘書だったあなたに灰音さまを託されました。しかし、あなたは灰音さまを虐待し、家から灰音さまが出ても探すこともしなかった。これは母親とは言えません」


黒瀬のおじちゃんは淡々と結論を語る。

「ゆえに、あなたに社長の遺産を受け取る権利は消滅します。即刻出て行ってもらいましょう。そして、本来は灰音さまの生活費と教育費だったものをあなた達が使った分は全て返済していただきます」

三笠のおばちゃんの前にものすごい請求書の山が積み上げられていく。

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