シンデレラとバカ王子
「王子さまがまさかキャバクラにくるなんて思いませんでした」

「私も、恩人がキャバクラで働いているとは思わなかった」


「恩人?」

 王子様の恩人になったことなんて人生で一度もなったことがないし、記憶もない。


「以前、来日したときのことだ。見張りの目を盗んで外に出たことがあった。自業自得の話しだが、道に迷った挙句、ガラの良くない男たちに囲まれたときにあなたが助けてくれた」

 そんなこと····。あった、あったよ。2年くらい前だ。買い物してた時、チンピラに囲まれた男を助けたことがあった。

この人だったんだ。

「その時にハンカチを貸しくれた。お礼をしたかったが、黙って行ってしまわれた。今度をくるときは必ずあなたを探すと誓ってここに来た」

見覚えのあるハンカチを手渡された。

「あと、これも落として行ったのだが」

 小さな指輪を見せられた。どこにでもありそうな指輪だけど、これも記憶がある。無くしたと思ってたけど、落としてたんだ。

「私のです」

「ハンカチを出してくれたときに外れてしまったんだな」

奏姉ちゃんが誕生日だって買ってくれた指輪だった。なくなってすごくショックだった。

でも、こうして見つかってよかった。手を出すと手のひらにそっと乗せてくれた。懐かしい感触。

「ありがとうございます。大切なものだったんです」

嬉しくて何でもお礼を言った。

「綺麗な髪だな」

突然言われて、ゴムを引き抜かれてしまった。慣れた手つきで一束を掬い上げたかと思うと、髪にキスをした。
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