ヴァムピーラ

「声をかけてきたのはそっちだろ?」
「っ・・・!」

 彼女はもう一度私を睨みつけて、リキを睨みつけた。

「最低っ!」
「最低で結構」

 涼しい顔のリキに、彼女は地団太を踏んだ。そして、その場から去っていった。

「・・・あの」
「ん?」

 私はため息をついて、

「どうでもいいけど、修羅場に私を巻き込むのはやめて」
「ごめんな」

 苦笑するリキは、優しい顔をする。さっきの冷たい目が、嘘のような。

「デートの最中なら、私に声をかけなくても良かったのに」
「デートなんかじゃない」

 リキは、鼻で笑った。

「あの女が声をかけてきたから、誘いに乗っただけ。俺が帰ろうとしても、しつこくついてきただけだ」
「は?」
「そしたら、ちょうどカノンが見えたから、あいつのことなんか忘れて話し込んでたってわけ」

 天晴れな言い訳だ。
< 32 / 95 >

この作品をシェア

pagetop