ヴァムピーラ



 そして撮影の日、私は河島さんに教えられた建物の前にいた。入り口で河島さんを待つ。
 建物に入る人達を何気なく眺めていると、

「カノンちゃん」
「あ」

 後ろから声をかけられた。振り返れば笑顔の河島さんが立っていた。

「こんにちは」
「じゃ、ついてきて」
「はい」

 河島さんの後に続いて受付を通る。その際、部外者用のIDを渡された。
 エレベーターに乗り込んだ際、河島さんは面白そうに私を見て、

「さっきの受付の子、君が新しいモデルだと思ったみたいだよ」
「えっ」
「見た目はミウにそっくりなんだから、そんなに驚くことじゃないと思うんだけど」

 私は苦笑して、

「今まで撮ることばかりに夢中だったから、撮られることは考えたことがなかったんです」
「はは、カノンちゃんらしいね」

 エレベーターが止まって、照明が抑えられた廊下を歩く。

「カノンちゃんは、どうして人を撮らないんだい?」
「え」
「爽幻が言ってたんだ。カノンちゃんは風景ばかり撮っていて、人は撮らないって」
「・・・人を撮りたいと思ったことがないんです」

 私の言葉に、河島さんが足を止めて私を見た。私も彼を見返す。
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