ヴァムピーラ
「ひできちゃーんっ、おっはよーん」
部屋の向こう側から大げさな身振りで挨拶をした人を見た瞬間、私は言葉を失った。
横を見れば河島さんも苦笑していて、
「彼は、腕のいいメイクさんだよ」
腰をくねらせながら、河島さんにアピールしている、いかつい身体をした男の人。遠めにも存在感たっぷりだ。
「カノンちゃんも、メイク頼んでみる?」
「結構です」
私は慌てて首を横に振った。それを見て笑いながら、河島さんはその男の人の方へと歩いていく。
「やあ、コータ」
「なあに?今日は随分可愛い子と一緒じゃなーい・・・あら?」
コータさんと呼ばれた男の人はずずいと私に顔を近づけた。思わず身を引く私。
「あらら?」
「な、なんですか?」
化粧をしているけれど、うっすらとひげが見える。そんな迫力満点の顔に見つめられ、私の背中を冷や汗が伝った。
「ミウ?」
「え?」
「貴女、ミウ?」
「いえ、それは母です」
私がそう応えた瞬間、耳を劈くような黄色い声がコータさんから放たれた。
「きゃあああああああっ」