一般人になるまで
父は、母の異形に耐えられなくなって、息子を置いて蒸発したのだ

母は、俺に
「お父さんは、仕事でもう帰ってこれなくなっちゃったから、これからはお母さんと二人で頑張ろうね」
と言った

でも、夜になると
全く可愛くない猫の鳴き声、いや、もう泣き声といっていいだろう
喉がはちきれんばかりに鳴く猫の声が聞こえ、母の怒声が響いた
何故私を捨てて出て行ってしまったの
許さない許さない許さない
呪文のように
許さない、を繰り返してその行為は何ヶ月も続いた
そして、今は
猫を傷付けるという工程だけが残っている

猫の雄叫びと呪文のような許さない、を子守歌のように聞いて育った俺は、何故父は自分を連れて行ってくれなかったのか
そればかりを考えていた

しかし、猫では怒りが到底収まらない上、苦しむ顔が好きな母は父という存在でその異常な趣味を解消していたため、ストレスが溜まり、ついに俺に矛先が向いてしまった

あの事件が最初の出来事だ
あのあと三時間かけて嘔吐物を拭いた
お風呂に入るときお腹をみると何度も蹴られたあとがあり、肋骨が折れていた
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