一般人になるまで
「ただいま!」

あのあと佳奈は、家に入り、制服を素早く脱ぎ捨て、リビングへ急ぐ

「聞いて!お母さん!今日ね、友達とプリクラを撮ったの!見て、可愛いでしょ」

ケータイを見せながら、上機嫌にくるくるとターンする
お父さんも!
と言って、父親にもケータイを見せびらかす

「あっ、晩ご飯私が作るから、そのまま座っててね!」

思い出したように、キッチンに立ち、オムライスを作る
時折、きゃあっ、などと言いながら、慣れていない様子が見て取れる

「かんせーい、はい食べてー」

自分の席に歪(いびつ)なオムライスを置き、母親と父親の前に、オムライスで使用した卵の殻を皿に乗せたものを置く

「見た目はアレだけど、美味しー」

オムライスを美味しそうに頬張る

父親も母親も卵の殻に手はつけない
いや、つけられない

何故なら、彼らはすでに死んでいるから
しかし、そんなことは感じさせないような明るさで佳奈は一人で喋る

「今日も食べない気ー?好き嫌いはいけないぞー?」

グシャッと音がして、卵の殻が母親の口に突っ込まれる
もう腐敗している死体に佳奈が卵の殻を入れたせいで、口の中から蠅やらが飛び出す

「はーい、おいちーでちゅねー」

佳奈は嬉しそうに赤ちゃん言葉で母親に話し掛けている
父親はもう白骨化していて、虫はいない

< 43 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop