薔薇刺青






「――…おーい」



「……はっ!」




どれくらい回想に浸っていたことでしょう。


姿見の前で立ち尽くした私を、呆れたような目で眺める我が主がいらっしゃいました。



「おはようございます、今朝は早起きですね、主」



低血圧のくせに。



「早起きなものか、時計を見ろ」



「……え?」



壁の鳩時計がちょうど巣箱から飛び出してきました。


なんということでしょう、短い針が10を差しています。




「お前が寝坊助なんだ、今起きたのか」



「いいいいいえっ、し、失礼しました直ぐに朝食の支度を!」



「いらん、着替えるだけ着替えればいい。」



「しかし朝食を抜いては」



「今日はスラムの店屋に寄る予定だろう、報酬がてら何か食い物でも買えばいい」


「はあ…」


「早く着替えろよ」




そう言って、主は扉を閉めて出ていきました。


……というか使用人といえど着替え中の女性の部屋に普通に入ってくるとか大丈夫なんですかね。


私だからという条件を解っているなら良いのですが、一般の女性に同じことをしたら問答無用で頬に手の平跡がつきます。



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