薔薇刺青



『死』に捕われる当時の彼女を、未だ鮮明に覚えていた。



死ぬという選択肢を忘れた成り上がりの馬鹿どもは、決して知りえない。


されど、たかが数キロ歩いた程度で死ぬか否かの選択肢しか持ち合わせない人間なんてごまんといる。



彼らは貴族たちを嘲笑いたい。



不平等な運命に、それを与えた女神様に、ひとでなしだと叫んで嘆いて更には殺してやりたいだろう。


それを哀れと思えども、哀れと嘆く感情は所詮一時の気紛れに過ぎず、一歩踏み出せば消えてしまう浅はかな同情なのだ。



だから、救おうとは思わない。



人は傲慢な生き物だけれど、少しでも傲慢ではいたくないから大きな口は叩かないしきれいごとなんて大嫌いだ。



――…そう、だから気紛れだ。



死の選択肢に埋まる君に、安っぽく手を差し伸べたのも。


馬鹿どもがやるように、無駄に綺麗な衣装を着飾ったのも。


そう、君みたいな人間が死ぬ選択肢を忘れたらどうなるかを見てみたかった。


それだけだ。


それだけのために君を拾った。



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