薔薇刺青
そうしていつか、例によって例のごとく手首を切った彼女を見下ろした日に。
そんなに死にたきゃ殺してやると言って剣で胸を切り裂いてやる。
ほら、命が惜しいか。
なら縋れ、泣き付け、『否』のプレートを『生きる』に書き換えればそれでよろしい。
ああつまりは彼女の屈伏を望んでいたわけで、男にありがちな征服欲の一種であることに気が付くと吐き気がした。
だから彼女には感謝している。
俺が一時でも馬鹿にならないで済んだのだから。
『………やっと』
虫の息で喋る。
真っ赤な血を撒き散らしながら、苦しそうに悶えながらも足掻きはしない。
『やっと、気付いたかバカ』
何に、だ。
『お前がやっていることの、無価値さが――…!』
そういって睨む彼女を美しいと思えた。
趣向が変わっているのは自覚している。
別に特別サドでなければ死体愛好家なわけでもなかったけれど、弱る君はまるで薔薇が急速に枯れていくように鮮やかで艶やかだ。
着飾った夫人より、磨かれた鉱石よりもずっと。
恐ろしいほどに綺麗が過ぎる。