薔薇刺青
最後まで彼女は縋ろうとはしなかった。
まるでこの征服欲が解っているかのようだ。
それを解って裏切りたかった。
好機とばかりに死を愛撫する、君は本当に恐ろしい。
…だから、殺すのは勿体ない。
簡単に死ねると思うな。
死を忘れない人間を一概に賢者と思うな。
君を拾わせた残酷な女神様を呪うんじゃない。
あまりにも寂しすぎるだろ。
『なあ痛いか』
『………』
『痛いか、人から押しつけられた理不尽な傷は』
『………っ』
『なあ、俺にとことん逆らいたいだろ』
ならば俺の意志に抗え。
とことん縛られて従順に生きればいい。
それが、君の自由を願った俺への最大の反抗ではあるまいか。
殺したいほどに、この世を廻す女神様は悲劇たる喜劇が大好きだ。
あらがえばあらがうほど、人は皆女神様の手の平で踊らされる。
気付かないのはどうしてかな、快楽に溺れぬ人間などいない。