薔薇刺青
『その屈辱を忘れるなよ』
そう言って茨は残った。
手首の傷は綺麗に消したくせに、胸の傷はまるで意志あるかのように深く深く根付いていく。
――…やがて根が全身に這う頃には私はあなたの物でした。
抗えと命じた指先に、溺れた私が掬われたのをあなたは自覚しているだろうか。
無責任。
今でもそう思っています。
あれで死ねたら楽だったでしょうに、生きる苦しみを敢えて押し付けたあなたはやはりサドなんじゃないですか。
『忘れるなよ』
ええ、忘れはしません。
医者に言われてもこの傷だけは消させません。
忠誠の証とでも呼びましょうか、はたまたあなたの身勝手なマーキング跡か。
どちらでも構わない。
ああ、『否』の後に現れた新たな道のり。
死にたくないと、思えるようになりました。
これでは賢者でも愚者でもありませんね。