大好きなアナタと、気になるアイツ【番外編更新中】
頭上で西園寺の声がしたかと思うと由香里は腕を掴まれその強い力とともに彼の胸に体ごと引き寄せられた。

「しゃ、社長……。」

「志水は黙っていろ。」

西園寺の冷たい声が聞こえた。

由香里は西園寺の広い胸に顔を押し付けた格好のまま動けない。

「斉木、ここで何をしていた?」

いつもの抑揚のない口調とは違い、あきらかに怒気を含んだ冷たい口調で話す西
園寺に由香里は無言で眼を見張っていた。

西園寺と向かい合う形になった斉木がクッと笑う。

「何って……わかるだろ?可愛い子がいるから口説いていた。それとも、君の会社の社員相手には恋愛してはいけないとか?」

「嫌がっている人間に迫っているように見えたが?」

すかさず西園寺が切り返した。由香里は西園寺の腕から抜け出したかったが強い力をこめられていて身動きが取れない。

「見間違いだろ?しかしまさか、走って止めに来るとはね……。」

「………。」

斉木の言葉に衝撃を受けたのか西園寺の腕の力が一瞬緩む。

由香里はその隙に彼の腕の中から抜け出すことに成功した。

「じゃあ、由香里さん。今度会った時には良いお返事をお待ちしていますね。」

斉木は優雅にほほ笑んで由香里に小さく手を振るとくるりと向きを変えて会場の中心へ歩いて行ってしまった。

由香里は人の輪に混ざっていく斉木を眼で追いながら彼が先ほど言っていた言葉を思い出した。

「社長……走ってきてくれたんですか?」

由香里は後ろを振り返る

「み、見るな……。」

そこには、耳をほんのり赤く染め由香里から視線をそらすように窓を見つめる西園寺がいた。

「ありがとう……ございました。」

由香里は小声でお礼を言った。

西園寺がほっと息を吐くのが聞こえる。

「暑いな……少しテラスにでも行こう。」
< 50 / 245 >

この作品をシェア

pagetop