大好きなアナタと、気になるアイツ【番外編更新中】
親知らずの抜歯。
部分麻酔をしてその後歯を砕きながら取り除いて行く……。
木崎から説明を聞いただけで目眩がした。
しかし、この期に及んで帰るわけにもいかず診察台の上で由香里は木崎が準備を整えるのを待っている。
カタンッと音がしたかと思うとマスクをした木崎が視界に入って来た。
手には注射器。
実際はそんない大きくない注射器も顔の近くで見せられる恐怖も加わって巨大なものに見えてくる。
由香里の手が込みに震えていた。
「大丈夫だから……。」
動かないように由香里の顔を片手で押えながらもう片方の出に握られた注射器が彼女の口の中に入れられる。
処置が見えないようにするためにかぶせられたガーゼ越しにうっすら見える木崎の顔は無表情で、由香里の頭の中は恐怖でいっぱいだった。
「……は……ん……。」
1本目の注射が終わり、口から針が抜かれたとたんに由香里は泣き出してしまう。
痛みからではない。
逃げられないこの状況が由香里の思考を狂わせた。
眼の前に迫って来た注射器が怖くて。
押さえつけられた頭が動かせないのが怖くて。
そして何よりも自分を無表情で見つめる木崎の顔が、怖かった。