七つの椅子
「ひっ……!!」
寿は一歩後退し、背後にあるデスクに腰をぶつけた。
俺は目の前で広がる手に少しだけ力を加え、閉じるように指を動かした。
その瞬間、目に見えない心臓がドクンっと跳ねるのが分かった。
同時に寿は眉を寄せ、胸を抑える手に力が入った。
「あっ……あぁ……や、やめろ……」
寿は苦しみの声を上げる。
先程まで気味悪い狂った笑顔を浮かべていた寿は一気に苦痛の表情へと顔を歪ませた。
やはり俺の手の中には寿の体内で血液を巡らす心臓があるようだ。
エレナは苦しむ寿を見たくないのか、興味が無いのか、俺の隣から移動し隠し扉の入り口である本棚の前で足を止めた。
「そっ……そこに、触るなっ!!」
本棚に隙間無く置かれた厚い本をドサドサと床に落とすエレナに向かって、寿は胸を抑えたまま叫んだ。
エレナは振り向きもせず、寿の言葉を無視して作業を続ける。
「触るなァ!!」
「……うるさい」