七つの椅子
俺は冷蔵庫から麦茶を取り出しグラスに注ぐと、テレビを見る為にリビングへ戻り、ソファーに座った。
グラスを片手に、背の低いテーブルに置いてあるテレビのリモコンを取ろうとして、伸ばした手を止める。
「……エレナ」
テレビのリモコンの隣に見覚えのある物が置かれていた。
それはエレナと一緒に暮らすようになってから、すぐに渡した合鍵だった。
俺はグラスをテーブルに置き、その手で合鍵を取る。
震える手で合鍵を握り締める。
この合鍵が意味する答え……。
「……そんなの……嫌だっ」
エレナは二度とこの家へ帰って来ないという事。
俺は、また大切な人を失ってしまった。
幸せの女神は甘い香りで俺を誘惑しても、決して甘い蜜を舐めさせてはくれない。
いつも一時的な幸せしか与えてくれない。
どうして俺には微笑んでくれない。
どうして俺を何度も苦しめるんだ。