七つの椅子
そんなに満員電車が嫌いなら、通勤ラッシュ時間に乗らなきゃいいのに…。
「違うわよっ!…もう、いい。早く行くわよ」
また俺の心を読んでエレナが怒鳴る。
…俺、何かしたかな?
イライラしてる女は理不尽なので、放おっておくのが一番だと思い、黙って歩幅の大きくなったエレナの後ろを歩いた。
歩き慣れた懐かしい道をエレナの背中を見ながら歩いて、なんとなく邪の椅子が何処にあるか予想がついた。
電車を降りた時点で頭にその予想はあったが、“だったりして”と軽い考えだった。
だが、エレナは確実に“あそこ”に向かって歩いていた。
「やっぱり…」
周りより背の高いビルを見上げ、ため息混じりに呟く。
「やっぱりって?」
機嫌が直ったのか、いつもの口調でエレナはビルから俺に視線を移した。
「ん?…あぁ、ここ俺が働いてた会社」
「知ってる」
エレナは一言呟くと、俺の手をとって自動ドアを通過した。
なんだ…知ってたんじゃん。